ルクソール西岸のハトシェプスト女王葬祭殿、王家の谷のついでに寄るだけの場所だと思っていませんか?結論から書くと、ここは視界に緑が一枚もない、地球に見えない景色が広がる場所でした。この記事は、2026年5月に1日ツアーで実際に訪れた記録をもとに、どこまで登れるのか、何分あれば足りるのか、そして私が見落としていた建物の中の話まで正直にまとめたものです。ルクソール西岸を回る予定の人に向けて書いています。
モク
むぎこの記事でわかること
- 🪐 ハトシェプスト女王葬祭殿が火星みたいに見える理由|緑が一枚もない景色の正体
- 👑 名前を削り取られた女王の話|なぜ消されたのか、2025年の新しい研究まで
- 🪜 3層のテラスはどこまで登れるのか|建物の中にも入れます
- ✨ 見逃しやすい星の天井の礼拝堂|「壁画はなかった」は私の見落としでした
- 📷 写真は離れて岩山ごと|非日常感が出る撮り方
- ⏱ 所要時間の実測値|写真の記録では35分、確保するなら1時間
- 🎫 入場料・タフタフ・混雑|行く前に知っておきたい基本情報
- 🗿 メムノンの巨像は20分|「見るところがない」は半分正しい
ハトシェプスト女王葬祭殿が「火星みたい」に見えた理由
ハトシェプスト女王葬祭殿に着いて最初に思ったのは、「ここ、地球じゃないな」でした。大げさに聞こえるかもしれませんが、理由は単純です。視界に入る色が、空の青と岩の色の2つしかないのです。
葬祭殿は、切り立った断崖にへばりつくように建っています。ふつう遺跡は「風景の中に建物がある」という見え方をしますが、ここは違いました。建物に使われている石と背後の岩山がほとんど同じ色で、しかも3層のテラスが横に長く伸びているので、建物が岩山の一部として最初から生えていたように見えるのです。直線でできた人工物なのに、周りの地形と一体化している。この違和感が「火星みたい」という感覚の正体でした。
そしてもう一つが緑です。参道から神殿までの数百メートル、視界に木も草も一本もありません。ナイル川沿いは緑が濃いのに、少し内陸へ入っただけでここまで何もなくなるのかと驚きました。「エジプトらしい写真」を撮りたい人には、ピラミッドよりもこちらのほうが非現実的な絵が撮れます。
名前を削り取られた女王ハトシェプスト|なぜ消されたのか
この葬祭殿を建てたハトシェプストは、古代エジプトで数少ない女性のファラオです。第18王朝の王女として生まれ、異母兄弟であるトトメス2世の王妃となり、夫の死後は幼いトトメス3世の摂政として実権を握り、やがて自らファラオを名乗りました。在位はおよそ22年。戦争ではなく交易で国を富ませた王で、プント(現在の東アフリカ沿岸と考えられている地域)への交易遠征がもっとも有名な功績です。
ところが彼女の名前と姿は、死後に壁から削り取られました。カルトゥーシュ(王名を囲む楕円)が削られ、彫像は砕かれ、後世の王名表からも外されています。古代エジプトの知識がまったくないまま行った私にとって、この「消された女王」の話がいちばん記憶に残りました。同じ石の壁でも、背景を知ってから見るとまったく違って見えます。
動機については、後継者トトメス3世の復讐という説が長く語られてきました。ただし調べてみると、この見方は近年見直されつつあります。男性による継承の正統性を強調するため、あるいは女性が王になったという前例を制度として残さないためという、より政治的な理由を挙げる研究者が増えているのです。さらに2025年には、トロント大学のジュン・イー・ウォン氏が学術誌『Antiquity』に発表した論文で、砕かれた彫像の壊れ方に注目しています。像は首・腰・膝という構造的に弱い部分で規則的に割られており、これは古代エジプトで故人の像に対して行われた儀式的な「無力化」の手順と一致する、という指摘です。壁から名前を削った行為にトトメス3世が関わったこと自体は確かでも、すべてを個人的な恨みで説明できるわけではないということですね。
ちなみにハトシェプスト本人のミイラは長く行方不明でしたが、2007年にエジプト考古庁が、王家の谷で発見されていた女性のミイラの1体を本人と特定したと発表しています。名前を消された王の体が3500年後に特定される、というのはなかなかできすぎた話です。王家の谷でどの墓を見るべきかは王家の谷のおすすめの墓|見る順番を間違えると感動が半減にまとめました。
3層のテラスはどこまで登れるのか|建物の中にも入れます
結論から書くと、1層目から3層目まで全部登れます。写真で見ると壮大すぎて「下から眺めるだけかな」と思いがちですが、中央の長い傾斜路(スロープ)を歩いて、いちばん上のテラスまで普通に上がれました。柵で仕切られているのは一部だけで、階段の上り下りに特別な許可や追加チケットは必要ありません。
登った先で待っているのが、ハトシェプストの顔をしたオシリス神の柱像です。両腕を胸の前で交差させた姿の像が、柱の前にずらりと並んでいます。下から見上げていたときは「四角い建物」という印象でしたが、3層目まで来ると急に「人が並んで待っている」ような圧が出てきます。ここは登らないと絶対に見られない景色なので、時間がないときでも上まで行くことをおすすめします。
建物の中にも途中まで入れます。奥の至聖所まで全部歩けるわけではありませんが、テラス沿いの小さな部屋にはいくつも入ることができました。この「中」の話が、次のセクションで書く見落としにつながります。
「壁画はなかった」は私の見落としでした|星の天井の礼拝堂
正直に書きます。この記事を書くにあたって当日を振り返ったとき、私は「ハトシェプストの中には壁画らしい壁画はなかった」と記憶していました。王家の谷の墓が色鮮やかだったので、比べると印象が薄かったのだと思います。
ところが自分で撮った写真を時系列で見返したら、思いきり壁画のある部屋に入っていました。紺色の天井いっぱいに黄色い星が敷き詰められ、壁には彩色されたレリーフが残る、かまぼこ型の天井をした小さな礼拝堂です。3500年前の色がそのまま残っていて、王家の谷の墓と比べても遜色ありません。
調べたところ、この葬祭殿には南側にハトホル女神の礼拝堂、北側にアヌビス神の礼拝堂があり、星が描かれた天井はアヌビス礼拝堂の特徴として知られています。私が入ったのはおそらくこの部屋です。ハトホル側は列柱にハトホル女神の顔が彫られていることで有名で、こちらも見どころとして紹介されています。
なぜ見落としたのか。理由ははっきりしていて、外の景色が強すぎるからです。岩山と一体化した外観のインパクトが大きすぎて、小さな部屋に入ったことが記憶から抜け落ちていました。加えて、有名なプント交易遠征のレリーフは2層目の柱廊の南側、女王の誕生を描いたレリーフは北側にあると資料にありますが、私はそこを意識して見ていませんでした。
これから行く人へのアドバイスとして、これはそのまま実用情報になります。ハトシェプストは「外観を見る場所」だと思って行くと、中の彩色を見ずに帰ることになります。2層目の柱廊の壁と、両端にある小さな礼拝堂。この2つは意識して探してください。
写真は「離れて岩山ごと」が正解|ベストな撮影位置
ここでいちばん良い写真が撮れるのは、建物に近づいた場所ではなく、参道の途中から岩山ごと画面に入れる位置でした。近づいて撮ると、どうしても「柱が並んだ建物」という普通の遺跡写真になります。逆に離れると、断崖の巨大さと建物の水平線の対比が出て、非日常感が一気に増します。この記事の1枚目がその位置から撮ったものです。
時間帯についても書いておくと、私が撮ったのは午前11時台です。太陽が高いので影が短く、建物の正面にまんべんなく光が当たります。コントラストの強い写真になるので、青空の色を出したい人にはこの時間帯が向いています。逆にドラマチックな陰影がほしいなら、開門直後の早朝のほうがよさそうです。葬祭殿は東を向いているので、朝は正面から順光になります。
もう一つ、参道の脇にはスフィンクス像が点々と残っています。引きの構図で撮ると、この像が前景に入って奥行きが出ます。1枚目の写真の左右に写っている、うずくまった形の石像がそれです。
入場料・タフタフ・混雑|行く前に知っておきたい基本情報
入場料は、複数の情報サイトで2025年11月時点として大人440EGP(学生220EGP)という金額が確認できます。ただし私は1日ツアーに参加していてチケット代がすべて込みだったため、自分で窓口に並んで払ってはいません。エジプトの遺跡は毎年のように値上がりしているので、実際に行く時期の金額は現地かツアー会社で確認してください。
支払い方法には注意が必要です。エジプトの政府系観光施設は現金での支払いを受け付けず、カード決済のみという運用になっています。ギザのピラミッドでも同じ仕組みでした。個人で行く場合、現金だけ持っていくと入れない可能性があるので、カードを必ず持っていってください。
開門時間は6:00から17:00が目安として案内されています。暑さを考えると、朝いちばんに入るのがもっとも快適です。
入口から建物までは「タフタフ」で移動します。チケットゲートと葬祭殿のあいだは歩くと距離があるのですが、電動トラム(現地でタフタフと呼ばれる乗り物)が走っていて、数分で参道の入口まで運んでくれます。王家の谷にも同じものがあり、こちらは追加で40EGP前後という情報があります。私たちはツアー料金に含まれていたので、その場での支払いはありませんでした。
混雑はほとんど感じませんでした。5月の午前中に行きましたが、待ち列に並ぶ場面は一度もなく、中も詰まることなく歩けました。広い場所に人が散らばるので、団体バスが何台か停まっていても窮屈さはありません。写真に人が写り込むのを避けたい場合も、少し待てば人の切れ目が来ます。
所要時間は1時間見ておけば十分|実測は35分でした
体感では「1時間弱いた」という記憶だったのですが、当日撮った写真のタイムスタンプを並べたところ、入口エリアに着いたのが11時17分、最後の1枚が11時52分。実際の滞在は約35分でした。3層すべてを登り、礼拝堂に入り、写真も動画も撮ったうえでこの時間です。
とはいえ、35分でいいですよと書くつもりはありません。確保するなら1時間が現実的です。理由は3つあります。
- 2層目の柱廊のレリーフと両端の礼拝堂を意識して見るなら、35分では足りない(私はそれで見落としました)
- 3層目まで登ると、上り下りの往復だけで10分前後はかかる
- 暑い時期は、日陰を探して立ち止まる時間が確実に増える
逆に「時間がなくて30分しか取れない」という場合でも、3層目まで登って戻るだけなら十分に成立します。優先順位をつけるなら、①上まで登る ②礼拝堂に入る ③引きで写真を撮るの順です。
日陰はほぼゼロ|午後になるほどきつくなります
モク
むぎこの場所を語るときに絶対に外せないのが、日陰がほぼ存在しないことです。参道にも、テラスの上にも、木や屋根といった逃げ場がありません。柱廊の奥に入れば一時的に日差しは避けられますが、そこにベンチがあるわけでもないので、腰を落ち着けて休む場所はないと考えてください。
私が訪れたのは5月の午前11時台で、この時点で「暑くなってきた」とはっきり感じる状態でした。ルクソールは同じ時期のカイロ・ギザよりも体感がはっきり暑く、日差しが痛いレベルです。ここを午後に組み込むスケジュールは、正直おすすめできません。
持ち物としては、水・帽子・サングラスは前提として、日傘を検討する価値があります。現地でも日傘をさして歩いている観光客を実際に見かけました。この日の暑さで実際に体に何が起きたかはエジプトの熱中症対策|4リットル飲んでトイレに行かなかったに詳しく書いています。めまいや頭痛が出たら無理をせず、日陰か車内に戻ってください。
メムノンの巨像は20分|「見るところがない」は半分正しい
ハトシェプストから車で数分の場所にあるのが、メムノンの巨像です。正直に書くと、行く前は「たくさんの遺跡の中に巨像がある」場所だと想像していました。実際は違って、平原に2体の座像がぽつんと立っているだけ。周りに神殿があるわけでも、展示施設があるわけでもありません。
それでもバスを降りて近くまで見に行く価値はありました。理由は大きさではありません。高さは約18メートルあるのですが、写真で見て想像していたサイズと大きくは違わなかったからです。効いてくるのは迫力の質のほうでした。日本のお寺で大きな仏像を見たときの感覚に近いのですが、それよりももっと重い。石の塊がそこにあるという事実の圧が、そのまま伝わってきます。これは車窓からは絶対に受け取れません。
実際の流れはシンプルで、降りる→ガイドの説明を聞く→近くまで歩いて見る→写真を数枚撮る。それで終わりです。滞在は20分ほど見ておけば十分でした。入場料はかかりません。柵の外から自由に見られる場所です。
周辺には土産物売り場らしい売り場はなく、現地の人が小物を少し売っているくらいです。ほかの観光地のような強い客引きもありませんでした。写真はシンプルに正面から撮るのがおすすめです。2体を横並びで画面に入れると、背後の岩山も一緒に収まります。
この巨像はアメンホテプ3世の座像で、もともとは巨大な葬祭殿の入口を守っていましたが、その神殿自体はほとんど残っていません。「2体だけがぽつんと立っている」のは、そういう事情によるものです。ちなみに紀元前27年の地震で像が損傷して以降、朝日が当たる時間に音を発するようになったと伝えられ、これが「鳴く巨像」としてローマ時代に有名になりました。2世紀末にローマ皇帝セプティミウス・セウェルスの命で修復が行われると、音は止んだといいます。
ルクソール西岸は午前中で回り切れる|実際のタイムライン
西岸をどう組むかですが、私たちの1日ツアーは王家の谷から始めて、土産物店、ハトシェプスト、メムノンと回り、昼食で西岸が終わりという流れでした。写真の位置情報と時刻から復元した実際の動きが下の表です(エジプトの5月はサマータイム期間のため現地時間はUTC+3)。
| 時刻 | スポット | 滞在の目安 |
|---|---|---|
| 8:35〜10:29 | 王家の谷 | 約1時間55分(墓5基) |
| 10:54頃 | アラバスターの土産物店 | ツアー定番の立ち寄り |
| 11:17〜11:52 | ハトシェプスト女王葬祭殿 | 約35分 |
| 12:07頃〜 | メムノンの巨像 | 20分ほど |
| 12:26頃 | 昼食(屋外テラス) | 西岸はここで終了 |
この通り、西岸の主要スポットは午前中で回り切れます。移動効率としてはよくできた順番で、暑さが本格化する前に屋外の広い遺跡を消化できるのが利点です。ただし正直に書くと、この行程が暑さを避けてくれるわけではありませんでした。昼食も屋外のテラス席でしたし、午後は東岸の大神殿が待っています。
もう一度組むとしても、私はツアーを選びます。西岸には公共交通機関がなく、個人で回るとスポットごとにタクシー交渉が発生します。チケットもツアー側が用意してくれるので、入場がとにかくスムーズでした。西岸と東岸を1日でどう回るかはルクソール観光モデルコース|1日で回った実際の順番にまとめています。
最後にもう一つ。西岸をツアーで回る価値は、移動やチケットの手間が省けることだけではありませんでした。古代エジプトにまったく興味がなかった私が、帰ってから自分で調べるようになったのは、間違いなくガイドの説明があったからです。ここは予備知識ゼロで来ると、ただの大きな石造りの建物で終わってしまう場所でもあります。
よくある質問(FAQ)
Q. ハトシェプスト女王葬祭殿の所要時間はどれくらいですか?
A. 実際の滞在は約35分でしたが、確保するなら1時間をおすすめします。3層すべて登り、礼拝堂やレリーフも見るなら、35分ではやや駆け足になります。
Q. 建物の中に入れますか?壁画はありますか?
A. 途中まで入れます。星が描かれた天井と彩色レリーフの残る礼拝堂があり、外観だけ見て帰ると見落とします。ただし奥の至聖所まで自由に歩けるわけではありません。
Q. 王家の谷とハトシェプスト、どちらを先に回るべきですか?
A. 私たちは王家の谷が先でした。王家の谷は墓の中に入ってしまえば日差しを避けられますが、ハトシェプストは逃げ場がないので、後に回すほど条件が厳しくなります。開門直後の涼しい時間を王家の谷に使う定番の順番で問題ありません。なお王家の谷の中では「どの墓から見るか」という別の順番の問題があります。
Q. 個人でも行けますか?
A. 行けますが、西岸には公共交通機関がありません。スポットごとにタクシーやドライバーの交渉が必要になるので、1日ツアーかタクシーチャーターが現実的です。チケット手配込みのツアーだと入場もスムーズでした。
Q. メムノンの巨像は入場料がかかりますか?
A. かかりません。柵の外から見学する形で、滞在は20分ほどで十分です。
Q. 1997年に事件があった場所と聞きました。いまは安全ですか?
A. 1997年に外国人観光客が襲撃されたルクソール事件は、この葬祭殿の前で起きています。事件後は警備が大幅に強化され、現在も観光警察が配置されている場所です。私が訪れたときに不安を感じる場面はありませんでしたが、渡航前には外務省の海外安全ホームページで最新の情報を確認してください。
まとめ
- ハトシェプスト女王葬祭殿は視界に緑が一切ない、地球に見えない景色。建物と岩山がほぼ同じ色で一体化している
- 3層すべて登れて、建物の中にも途中まで入れる。星の天井と彩色レリーフの礼拝堂は意識しないと見落とす
- 写真は離れて岩山ごと入れるのが正解。近づくと普通の遺跡写真になる
- 所要時間は実測35分、確保するなら1時間。混雑はほとんどなく、並ばずに入れた
- メムノンの巨像は入場料なし・20分。大きさより「重さのある迫力」があり、降りて見る価値はある
- 日陰はほぼゼロ。西岸は午前中に回り切るのが正解
名前を消された女王が3500年後にいちばん有名になっている、というのがこの場所のいちばんの皮肉かもしれません。ルクソール西岸に行くなら、ここは「ついで」で終わらせるにはもったいない場所です。
この日の様子、Instagramにも投稿しています📸

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